辻音楽師な日々

現代の竪琴「ライア」を弾いています。              BBS http://rara.jp/leier

大阪に行った

で、ライアのアルト君と、オーボエの13175君を抱えて、新幹線に乗って行きました。大阪のシュタイナー系の情報誌、「めたもるふぉーぜ」主催の言語造型公演で、語りの伴奏をするのだ。


7:40広島発の 「のぞみ」に乗ろうと駅に着いたのが5分前。(敢えて、自宅を出た時間は書くまい。まだ外は暗かったとか星が出ていたとか)これを逃すと30分は計算が狂う・・・


だだだだだだーーーーっっしゅ!


巨大なアルト君はインパクトがあるようで、周りの人は道を譲ってくれる、というか恐れおののき避けてくれる。とばっちりを食ったのはカバンの中に収まった13175君。ケースに入ってクッションも詰めているとはいえ、まさかこんな小さなカバンに楽器がはいっているだ等とは誰も気づかないのだろう、人混みの中でカバンごともみくちゃにされている。


あぅ、衝撃や振動がヤバイのはこっちの方なんだが。ライアーとオーボエのダブルケースなんてできないかなぁ・・・などおバカな事を考えながら発車のベルが鳴り響くホームに到着、そのまま何事もなかったかのように乗車。


前日、大阪でも豪雨が降ったそうだけれど、新大阪駅についたらあっけらから〜ん、とした晴天。歩いて行けるところに会場があると聞いていたし、ちゃんと地図も持っていたのだけれど、スタッフから堅く、かたーく、「タクシーに乗るように」指令が出ていた。そう、私はかなり上級(?)の方向音痴人間なのである。私の耳は、音楽専用で平衡感覚を司るようにはできていないらしい。


案の定、タクシー乗り場が見つからずウロウロしていると
突然売店にて「たこ焼きプリッツ」発見!!!


おおおお!ピアノの生徒におみやげに頼まれていたブツである。
これぞ大阪名物(というわけでもなかろうが)目に付いた時に買って置かねば
再び同じところに戻れる保証はない。
そして、買えなかった場合・・・食い物の恨みは恐ろしいのである。

キツネにバカされたようにぐるぐるワンデリングするうちに、案内所が見えてきた。ふぅ、助かったぜぃ。 「タクシー乗り場はどこでしょうか」「ココですよ」案内のお姉さんはにっこり笑って答えてくれた・・・。


さて、タクシーを降りたら、そこは、ビルの谷間。あんで、こんなにビルばっかりあんだよーー。おまけに曲がり角が90度ばっかじゃ、区別が付かないじゃんかーーー (田舎者の叫び)地図を見ながら歩き出そうとしたその時、いきなり、ずざざざざざざーーーっ、と大粒の雨が降り出した。


おーっ、そりゃないぜ。


右手はライアーのハードケース(表面撥水加工済み)、左肩にオーボエの入ったショルダーバッグ、そして手には紙袋に入った「たこやきプリッツ」この3つの中で濡れてしまうとヤバい荷物は疑いようもなく「たこやきプリッツ」である。それにしてもなんてこったい。傘はない〜♪となると、方法は一つしかない。


「すまん、アルト君」私はショルダーバッグを斜めがけにすると、ライアーを横倒して捧げ持ち、「たこ焼きプリッツ」を雨からかばいつつ、近くのビルの屋根の下に逃げ込み、周りの人に迷惑にならないよう、コソコソと目的地に向かってよたよた歩き出す。

雨に濡れないようにタクシーに乗るのが普通なんだよね、乗っている間だけ止んでるって何なんだろうね・・・うぅ・・と、人生の悲哀を嘆きながら、ふと目の前を見ると、背の高い細身の兄ちゃんが荷物をなにやらゴソゴソ動かしている。あ。今日の語りを演じる、なにわの色男、諏訪耕治さんだ。いつもながらインパクトのある姿とお声。


「おはよーございまーす」
「ああ、よかった。なかなかいらっしゃらないので心配してたんですよ」
「・・・あ、その、いえ、ゴニョゴニョ」
「たこ焼きプリッツ」を雨から死守するために道に迷ってた、なんて誰が口にできよう。


打ち合わせが終わった頃には、ぼちぼちお客さんも集まりはじめ、開演となる。

最初に司会者の開会の挨拶と出演者の紹介があるのだがそれを聞きながら
諏訪さんと私は、舞台裏で思わず吹き出した。


「諏訪さんって、結構すごい方だったんですね」
「辻音楽師さんも実はなんだかすごい方ですね」


そう、プロフィールなんてそんなもんである。良さげに見える事実を並べて都合の悪いことさえ書かなければ誰でも「なんだかすごい方」になれるのである。
「はじめたきっかけは単なる付き合い」とか、「楽譜通りに弾いたためしがない」とかそんなことは書いてない。嘘は付いてないぞ、ウソは。


それはともかく司会者の「では、お願いします」の合図で私は覚悟を決め、大きく息を吸って宙の一点を見つめた。それからゆっくりと目を閉じて降りてくる音を静かに待った。


かろうじて落ちてきた薄くてもろい音のカケラを震える指先で拾い、そっと弦の上に載せようと目を開いた・・・

(つづく)


*** ここらで、演目 ***


【語り】
■大阪弁で人生の痛恨を救済できるか(井上俊夫)
名人伝中島敦
  ライアによるお囃子(オリジナル)付き

【ライアーソロ&弾き語り】
  グレゴリア聖歌   ゆりかごの歌  アイルランド古曲から 
  くらげのうた(オリジナル)